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大阪高等裁判所 平成2年(行コ)40号 判決

控訴人

松谷千鶴子

被控訴人

大阪市庭井土地区画整理組合

右代表者理事

山本甚四郎

右訴訟代理人弁護士

白井晧喜

主文

原判決を取り消す。

本件を大阪地方裁判所に差し戻す。

事実及び理由

一控訴人は主文同旨の判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。なお、控訴人主張の請求の趣旨及び原因は原判決添付のとおりである。

二控訴人の本訴訴えは、控訴人所有の原判決添付物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)につき、被控訴人が平成元年七月五日付け通知書によりした土地区画整理法に基づく換地処分(以下「本件処分」という。)の無効確認又は取消しを求めるものであり、本件処分の内容は、大阪市住吉区内所在の本件土地三〇九三平方メートルを2759.3平方メートルに減歩し、清算金一六万七六四〇円を交付するというものである。したがって、控訴人は、本訴提起に際しては、行政事件訴訟法七条、民事訴訟費用等に関する法律(以下「費用法」という。)四条規定に従って手数料を納めなければならないが、本件訴えは財産権上の請求に係る訴えであるから、手数料算出の基礎となる訴訟の目的の価格(以下「訴額」という。)は、費用法四条一項、民訴法二二条一項により、訴えをもって主張する利益によるべきことになる。そして、この利益は、訴えの提起等をした者が請求を認容された場合に受ける直接の客観的な経済的利益をいうものと解される。

そこで、本件訴えの訴額について検討するのに、本件のように土地区画整理組合(以下「組合」という。)が行う土地区画整理事業にあっては、換地処分をしたときは、その旨を大阪府知事に届け出なければならず、この場合、知事は換地処分のあった旨を公告することになり(土地区画整理法一〇三条三項、四項)、この公告があったときは、換地計画において定められた換地は公告の日の翌日から従前の宅地とみなされ、換地計画において換地を定めなかった従前の宅地ついて存する権利は、その公告の日に消滅するものとされているところ(同法一〇四条一項)、記録によれば、本件処分はいわゆる現地換地であって、従前の宅地の周辺部が道路用地となり、その余の部分が換地とされていることが認められる。そうすると、控訴人の本件訴えは、形式的には本件処分の無効確認又は取消しを求めるものではあるが、実質的には右換地計画において道路用地とされた部分の回復を求めるものということができ、また、本件訴えが認容されることによって控訴人が受ける直接の客観的な経済的利益は、本件土地の内道路用地とされた部分、すなわちその減歩分の価格相当額であるというべきであり、したがって、本件の訴額はこれを基準として算定するのが相当である。

ところで、記録によれば、本件土地三〇九三平方メートルの平成元年度における固定資産税評価額は金三億一五八七万二〇〇〇円であり、本件処分による減歩分は333.7平方メートル(本件土地の約10.78パーセント)であるから、その減歩分の評価額は金三四〇五万一〇〇一円となり、したがって、本件訴え提起の手数料額は、費用法別表第一の一により金一七万八六〇〇円とすべきこととなる。ところが、原審は、本件の訴額を本件土地全体の評価額の二分の一とし、これを基準として本件訴え提起の手数料額を金七九万七六〇〇円であるとし、これを前提とする印紙追貼命令に控訴人が応じなかったことを理由として本件訴えを不適法として却下した。しかし、原審の右処置を肯定することができないことは前述したとおりである。

なお、土地区画整理事業の実施により、本件土地は減歩にはなるものの、その価値は従前の土地の価格とは大差がなく、したがって、このような場合の訴額は算定不能とすべきであるとの見解もあり得るが、当裁判所は、右見解には同調できない。

三控訴人は、控訴状に貼用すべき印紙の不足額一二万七八〇〇円を追貼したほか、本件訴え提起の手数料額の不足分金一七万〇四〇〇円をも当審において追貼したことが記録上明らかであるから、本件訴え提起における手数料納付不足の瑕疵は補正され、本件訴え提起は始めに遡って有効になると解される。

よって、民訴法三八八条に従い主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官日野原昌 裁判官前川鉄郎 裁判官加藤誠)

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